ブログ

Justus Kreuels - 21. December 2020

登録商標の使用証明

猶予期間中の使用証明

商標登録は、「ブランド」を構築するために重要です。しかし、これは単なるスタートにすぎず、商標は継続して使用することに意味があります。実際には、商標登録は、競合他社より前に商標を使用していることを証明するため、つまり優先順位を証明するために必要となります。

商標の登録後、約5年間を猶予期間とする国が多く、この期間中は商標の使用証明は必要ありません。これは、ブランド開発の初期段階で商標の使用を証明することなく、競合他社に対して権利を主張できることを目的としています。

ただし、使用されていない商標はブランドではなく、商標を使用しなければその登録は消滅する、と多くの国で認識されています。

5年間の使用証明猶予期間は、商標がDPMAに登録された日、あるいは商標に対する異議申し立て手続きが終了した日から有効になります。つまり、商標権者が登録商標をすぐに使用する必要はなく、それでも権利を主張できることを意味します。したがって、商標をすぐに使用しなくても、たとえば、まだ準備期間中であったり、市場投入が将来的に計画されている場合にも商標権を確保することができるのです。

言い換えると、商標権者は、商標法の法的要件を満たすために、登録から5年以内に商標を市場に導入し、使用する必要があります。これを行わないと、商標権が抹消される可能性があり、たとえば、猶予期間終了直後に抹消申請が提出され、猶予期間中にその商標が使用されなかったと判断されると、商標権が消滅される可能性もあります。

このことから、猶予期間中でも使用証拠を収集することを強くお勧めします。少なくとも、猶予期間中に収集作業を開始し、そして猶予期間後もこれを継続する必要があります。

使用証拠を収集して保存することを早い段階で日常化するのがよいでしょう。つまり、使用証明は猶予期間に関係なく、常に記録し、保存することが重要であると言えます。

登録商標の使用証拠

基本的にどの証拠を記録、保存すればよいのかには、明確なルールはありません。言い換えれば、使用していることを証明できるものはすべて役に立ちます。

商標の使用とは、認識価値を生み出すために商品やサービスを識別するために商標を使用することです。つまり、消費者はあるブランドの商品またはサービスであるがために、それらの商品またはサービスを欲する傾向がある、ということです。

使用を証明するのに最も費用のかかる方法は、意識調査です。このような意識調査は複雑で費用も嵩み、有名ブランドでないとこのような調査はできないことが多いのが実情です。しかし多くの登録商標が、適切な証拠を提供することが困難であるにもかかわらず、使用商標と見なされています。

実際には、上記の意識調査以外の方法で証明できることが多くあります。基本的には、商標が関連商品およびサービスに市場で使用されていることを証明すればよいので、商品の画像や写真が掲載されたパンフレットなども有効です。写真や画像が掲載されたパンフレット等を顧客が手にしている画像であればより効果的です。またスーパーマーケット等でブランドが表示されている製品が棚に置かれている写真を撮影日時と組み合わせたり、製品が陳列されている画像を数多く記録することも有用です。これらは、広告代理店のスタジオで撮影された製品パッケージよりも確実に信憑性の高い使用証拠となります。

AmazonやEbay等のウェブサイトをスクリーンショットしたものに、撮影日を付与するのもよいでしょう。また、ウェイバックマシンという、インターネット上の過去の情報を扱うデジタルアーカイブを使えば、特定の期間のウェブサイトを閲覧できるので大変便利です。

これらに経済効果に関する記録があれば、使用証明としての価値が一段と上がります。例えば、一定期間にどのくらい製品およびサービスを販売したか、売り上げはいくらだったか、個々の売り上げによる、収益はどれぐらいであったか等すべて記録することが重要です。

特に、文字商標の場合、請求書にブランド名を記載することは戦略的に有意義です。また、使用証明としてのみならず、ヘッダーに商標が記載されていれば、顧客にブランド名を記憶してもらえるというメリットがあります。製品をどこから購入したかを思い出すのに、古い請求書を取り出すという顧客は多々存在します。

つまり、使用証明を確保するだけでなく、ブランド開発にも役立っているのです。

使用証拠の使用

ドイツでは、商標登録を更新するために使用証拠を特許庁に提出する必要はありません。商標が市場で認識されている場合、少なくともドイツでは、生涯に渡り商標の更新のために、使用証拠を提出することはないかもしれません。

商標の使用証拠の取り扱いは、各国で異なります。たとえば、米国では、商標の更新時には、商標の使用証拠の提出が求められます。しかし、特に商標が製品に記載されていることに重点が置かれています。これはアメリカに限らず、商標の使用証拠の提出が義務になっている国は多々あります。

ドイツでも商標紛争が発生した場合は、使用証明が必要になります。たとえば、競合他社が自社よりも後に商標出願をし、これに対し異議申立手続きを申請する際に商標の使用証明が必要になります。

先の商標登録から5年以上経過していれば、後の商標権者は不使用取消審判を請求することができます。後の商標登録を防ぎたい先の商標権者は商標の使用を証明しなければなりません。商標を使用していることを証明できなかった場合、後の商標出願者は先の商標権者の商標取り消しを申請する可能性があります。こうなると、非常に厄介です。これは、いわゆる使用証拠が不十分であったことに起因する問題です。このため、商標に関連する紛争では使用証明が必要となることを考慮し、将来にそなえて、商標がいかに使用されていたか、使用されているかを記録する必要があります。

さらに、ブランドを売却したい場合にも、使用証拠は非常に重要になります。たとえば、商標が絶え間なく使用されていたことを証明できれば、潜在的な購入者は、安全して商標権を購入することができます。一方、販売時に商標登録した事実しか提供できない場合、潜在的な購入者にとっては、自ら商標に関する問題をすべて対処しなければならないこと意味します。

商標証拠に関しては、専門家から定期的に確認・分析に関するアドバイスを受けることをお勧めします。記録プロセスに僅かな変更を加えるだけで、使用証拠の記録の改善のみならず、使用の種類自体も大幅に改善されることが多々あります。

商標を適切に使用することで、権利が保護されるだけでなく、市場での商標評価が改善され、ブランド価値も高まります。

Justus Kreuels:



karo IPパートナーである、ユストス・クロイエルスはミュンヘン工科大学およびアーヘン工科大学で機械工学を学び、2011年にドイツドイツ弁理士、2012年に欧州弁理士の資格を取得しました。特にドイツにおけるモバイル通信、モノのインターネット(IoT)、ロボット工学分野での知的財産権に関するアドバイスを行っています。

>> 

>> ブログへ戻る

その他の記事。

統一特許裁判所現在の動向
Matthias Rößler - 20. July 2023

特許法における人工知能
Justus Kreuels - 19. May 2023

仮想商品の商標登録
Matthias Rößler - 1. March 2023

特許異議申立
Justus Kreuels - 26. January 2023

インターネット上の知的財産権侵害
Matthias Rößler - 14. December 2022

知的財産デューデリジェンス
Justus Kreuels - 3. November 2022

登録商標の監視
Matthias Rößler - 26. September 2022

特許庁での権利移転登録申請手続き
Justus Kreuels - 29. August 2022

商標の国際登録制度
Matthias Rößler - 27. July 2022

欧州特許法に基づく第三者による意見書
Justus Kreuels - 14. June 2022

特許調査、特許データベースおよび調査費
Matthias Rößler - 20. April 2022